海外出張中のけが・病気は労災になるか|適用の考え方と請求の手続き
公開日 2026-10-13
この記事のポイント
- 海外出張として扱われる間は国内と同じように労災保険の給付を請求できる
- 出張か派遣かは勤務期間の長短ではなく働き方の実態で判断される
- 請求書には事業主と現地で診療した医師の証明が必要になる
海外出張中のけが・病気は、その渡航が「海外出張」として扱われる限り、国内で働いているときと同じように労災保険の給付を請求できます。会社側の役割は、現地でしか用意できない書類をそろえ、業務の内容を記録しておくことです。
立場別に、先に読むところ
1. 海外出張であれば、国内の労災保険で請求できる
厚生労働省は、海外での業務を「海外出張」として扱う場合と「海外派遣」とみなす場合に分けて説明しています。
海外での業務が「海外出張」として取り扱われる場合には国内での災害と同様に労災保険給付を受けることができますが、「海外派遣」とみなされる場合には、海外派遣者として特別加入をしていなければ労災保険給付を受けることができません。
なお、海外「出張」に当たるか海外「派遣」に当たるのかは、海外における勤務期間の長短によって判断されるのではなく、その労働者の海外における労働関係によって判断されます。
出張者については、渡航のたびに特別な手続きは要りません。一方で、現地の事業場の指揮命令に従って働いている場合は、滞在が短くても海外派遣とみなされることがあります。
区分は、期間ではなく働き方の実態で決まります。自社の社員がどちらに当たりそうかは海外出張か海外派遣か 判定チャートで確かめられます。特別加入の手続きと期限は海外出張と海外派遣で労災はどう違う?にまとめています。
期間で線が引かれるのは、在留届(3か月以上の滞在)のような別の手続きです。労災の区分とは関係がありません。
2. 出張中のどこまでが業務として扱われるか
労災保険の給付は、業務が原因で起きた負傷・疾病に対して行われます。出張中は事業場の外にいますが、会社の管理下を離れていることが、そのまま対象外になるわけではありません。
出張の場合は、私用で寄り道したような場合を除き、用務先へ向かって住居又は事業場を出たときから帰り着くまでの全行程に亘って業務遂行性が認められます。
出張などの事業場施設外で業務に従事している場合は事業主の管理下を離れているが、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから、途中で積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務遂行性が認められます。
移動中や宿泊中も、この「全行程」に含まれます。逆に、私用で立ち寄った先での事故のように、業務から外れた行動が原因であれば同じ扱いにはなりません。
当てはめは労働基準監督署が行う
個別の事案が労災に当たるかどうかを決めるのは、所轄の労働基準監督署です。会社の役割は、事実を記録して正確に伝えるところまでになります。出張として扱われるかが判然としない場合は、あらかじめ労働基準監督署に確認するよう厚生労働省も案内しています。
3. 現地でしか用意できない書類
帰国後の請求書には、診療した医師の証明が必要になります(§4)。現地の医療機関に帰国後から依頼するのは手間がかかるため、受診したその場で受け取っておくものがあります。
| 書類 | どこで受け取るか | 帰国後に用意できるか |
|---|---|---|
| 診断書(傷病名・治療内容・日付が分かるもの) | 受診した医療機関 | できない |
| 領収書の原本(明細つき) | 受診した医療機関 | できない |
| パスポート・査証・航空券のコピー | 手元の書類 | できる |
領収書の原本は、手続きの途中で手元から離れることがあります。渡す前にすべて撮影しておいてください。渡航期間が確認できる資料として、パスポートと航空券の控えも一緒に残します。
業務外の私傷病で受診した場合は、労災ではなく健康保険の枠組みになり、必要な書類も変わります(海外療養費の申請方法)。
4. 帰国後の請求の流れ
請求書の様式を用意する
業務災害は様式第7号(1)、通勤災害は様式第16号の5(1)です。厚生労働省のサイトから入手できます。
事業主の証明と、診療した担当医師の証明を受ける
現地で受診した分は、医師の証明も現地の医療機関に依頼することになります。
支払った費用の領収書を添える
§3 でそろえた原本です。
事業場の所轄の労働基準監督署へ提出する
提出先は、本人が所属する事業場を管轄する労働基準監督署です。
先に健康保険で受診の扱いを進めてしまった場合も、整理して請求できます。
健康保険で医療費の一部を支払っている場合は、いったん医療費全額を支払った上で、労災保険に請求することができます。
その後、療養(補償)等給付たる療養の費用請求書(業務災害であれば様式第7号(1)、通勤災害であれば様式16号の5(1))に所定事項を記載した上、事業主と診療した担当医師の証明を受け、返納金の領収書と病院の窓口に支払った窓口一部負担金の領収書を添えて、事業場の所轄の労働基準監督署へ提出して下さい。
請求には期限があります。
療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
精算と同じ時期に動く
療養の費用の請求は、費用を支出した日の翌日から2年です。現地で立て替えた分は、帰国後の旅費の精算と同じ時期に手続きを始めると、期限に余裕をもって進められます。
5. 会社として先に決めておくこと
| 項目 | 決めておくこと |
|---|---|
| 連絡 | 誰が現地と連絡を取り、誰が家族に連絡するか |
| 記録 | 出張の目的と現地での業務内容、誰の指揮下で働いていたか |
| 費用 | 現地で立て替えた費用を、どの科目でいったん負担するか |
連絡の担い手と連絡先は緊急連絡カード・連絡フロー作成で1枚にまとめられます。費用負担の整理と会社側の初動は出張者が現地で入院したときの、会社の対応に、送り出す側の義務の考え方は海外出張と安全配慮義務にまとめています。
使えるツール海外出張・赴任 準備チェック診断
6. まとめ
| 場面 | やること |
|---|---|
| 受診した当日 | 診断書と領収書の原本を受け取る。撮影して控えを残す |
| 現地にいる間 | 誰の指示でどの業務をしていたかを、本人と会社の双方で記録する |
| 帰国後 | 様式第7号(1)に事業主と担当医師の証明を受け、所轄の労働基準監督署へ提出する |
公的な制度でどこまで扱えるかは、業務上かどうか、出張か派遣かで変わります。自社の渡航の形に当てはめた整理が必要な場合は、個別にご相談ください。
関連情報
出典
- 厚生労働省「労働基準情報:FAQ(労働基準行政全般に関するQ&A)海外出張先で事故に遭った場合、労災保険の適用はどうなるのでしょうか。」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei51.html (2026-10-12 取得)
- 厚生労働省 石川労働局「業務災害とは(業務上の負傷について)」 https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/hourei_seido/kyufu/kyufu03.html (2026-10-12 取得)
- 厚生労働省「労災保険に関するQ&A 2-1 健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか。」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154463.html (2026-10-12 取得)
- 厚生労働省「7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154480.html (2026-10-12 取得)
制度の内容や様式は改定されることがあります。実際の手続きにあたっては、所轄の労働基準監督署の最新の案内を確認してください。
監修:真下 恭徳(リスクコンサルタント/株式会社キール)
株式会社キールにて、法人のリスク管理と損害保険の実務に従事。事故対応と保険金請求の実務経験をもとに、海外で起きるトラブルへの備えを整理しています。
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