海外出張と安全配慮義務|会社が整えておくこと(労働契約法第5条)
公開日 2026-09-29
この記事のポイント
- 安全配慮義務は労働契約法第5条が根拠で、契約に定めがなくても会社が負う
- 必要な配慮は一律ではなく、働く場所などの具体的な状況に応じて求められる
- 出発前はたびレジに職場のアドレスを追加し、6か月以上の派遣は健康診断を行う
会社は、労働契約に伴って、社員が安全に働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。何が「必要な配慮」かは、働く場所などの具体的な状況に応じて求められる、と厚生労働省は説明しています。
立場別に、先に読むところ
使えるツール海外出張・赴任 準備チェック診断
1. 安全配慮義務とは
根拠は、労働契約法の第5条です。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
厚生労働省は、この条文を次のように説明しています(労働基準局長の通達)。
| 論点 | 厚生労働省の説明 |
|---|---|
| 契約の定め | 労働契約に特段の根拠規定がなくとも、付随的義務として当然に負う |
| 守る対象 | 「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれる |
| 何をするか | 一律に定まるものではなく、具体的な状況に応じて必要な配慮が求められる |
法第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。なお、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること。
海外出張に当てはめると
海外出張では、働く場所(労務提供場所)が海外になります。渡航先の治安・医療・連絡手段といった具体的な状況を踏まえて、何を用意するかを考えることになります。
2. 会社が整えておくこと
法律は「何をすれば足りるか」を一律には決めていません。ここでは、公的機関が示している手段を時期ごとに並べます。
出発前
渡航先の危険情報と、安全対策基礎データを確認する
外務省が国ごとに公表しています。当サイトの国・地域別の治安・渡航情報でも、原文とあわせて確認できます。
出張者をたびレジに登録し、職場のメールアドレスも追加する
渡航先の安全情報が、会社にも届くようになります(下の引用)。
出張か派遣かを整理し、派遣なら労災保険の特別加入を申請する
手続きと期限は海外出張と海外派遣で労災はどう違うかにあります。
6か月以上派遣するときは、派遣前の健康診断を行う
労働安全衛生規則で定められています(下の引用)。帰国後にも健康診断があります。
「たびレジ」は旅行者本人だけでなく「家族や職場の人のメールアドレスも追加登録」できるので、「日本にいる人にも、海外の安全情報を共有」することができます。例えば、お子さんが留学している保護者や、社員を海外出張に送り出している職場のかたも安全情報を共有することができるんです。
また、海外旅行関連業者など企業の皆様向けに、海外渡航者のデータを一括で登録することができるシステムも提供しています。
事業者は、労働者を本邦外の地域に六月以上派遣しようとするときは、あらかじめ、当該労働者に対し、第四十四条第一項各号に掲げる項目及び厚生労働大臣が定める項目のうち医師が必要であると認める項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
出張中と、事故のとき
| 時期 | 整えておくこと | 詳しくは |
|---|---|---|
| 出張中 | 会社側の窓口(誰に連絡するか)と、時差を踏まえた連絡の取り方を決めておく | 出張者が現地で入院したときの、会社の対応 |
| 事故のとき | 窓口を1名に決めて連絡を集約する。家族への連絡を誰がするかを決める | 同上 |
| 費用 | 医療費・搬送費用を会社がどう扱うかを、出張旅費規程で決めておく | 海外の医療費はなぜ高い? |
| 規程 | 渡航の判断・連絡・緊急時・費用を、海外出張規程にまとめておく | 海外出張規程の作り方 |
外務省は、中堅・中小企業向けの安全対策をまとめた「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」を公開しています。企業の心構え、平時の危機管理、有事への備えなどを章ごとに読めます(外務省 海外安全ホームページ)。
3. よくある質問
数日の短い出張でも関係ありますか
労働契約法第5条は、出張の期間で区別していません。厚生労働省の説明では、必要な配慮は具体的な状況に応じて求められます。短い出張であっても、行き先の状況を確認し、連絡の取り方を決めておくことは、出発前にできる準備です。
契約社員やパートタイムの社員は対象になりますか
労働契約法は「労働者」を、雇用の形で区別せずに定めています。
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
個別の事案がどう扱われるかは、事情によって異なります。判断に迷うときは、労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士に相談してください。
何から手をつければよいですか
出張者の行き先・日程・連絡先を会社が把握することと、たびレジに職場のメールアドレスを追加することから始めると、ほかの準備の土台になります。会社側の準備に抜けがないかは、海外出張・赴任 準備チェック診断で確認できます。
出典
- 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号) https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128 (2026-09-29 取得)
- 厚生労働省労働基準局長通達「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日 基発0810第2号) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001202391.pdf (2026-09-29 取得)
- 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号) https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 (2026-09-29 取得)
- 政府広報オンライン「出発前に登録を! 海外での安心を届ける“たびレジ”」(2025年12月15日) https://www.gov-online.go.jp/article/202512/radio-3335.html (2026-09-29 取得)
この記事は制度の説明で、個別の事案についての法的な判断を示すものではありません。法令・通達は改正されることがあります。
監修:真下 恭徳(リスクコンサルタント/株式会社キール)
株式会社キールにて、法人のリスク管理と損害保険の実務に従事。事故対応と保険金請求の実務経験をもとに、海外で起きるトラブルへの備えを整理しています。
株式会社キール(〒242-0006 神奈川県大和市南林間1丁目8番17号 レントールビル3階C号室)/ 引受保険会社:AIG損害保険株式会社