海外出張と海外派遣で労災はどう違う?|特別加入の手続きと期限
公開日 2026-09-15 / 最終更新日 2026-09-29
この記事のポイント
- 海外出張は手続きなしで労災の対象、海外派遣は特別加入していなければ給付を受けられない
- 出張か派遣かは出張命令書ではなく、勤務の実態で総合的に判断される
- 特別加入は災害の発生前が前提で、事故の後から遡って手続きはできない
海外で働く社員が業務中にけがをしたとき、日本の労災保険が使えるかどうかは、その人が「海外出張者」か「海外派遣者」かで変わります。会社側で最も間違えやすい論点です。
立場別に、先に読むところ
結論
「海外出張」の場合は、海外出張者に関して何ら特別の手続きを要することなく、所属する国内の事業場の労災保険により給付を受けられます。
一方「海外派遣」の場合は、海外派遣者に関して特別加入の手続きを行っていなければ、労災保険による給付を受けられません。
つまり
海外派遣に当たるのに特別加入の手続きをしていなければ、日本の労災保険は使えません。
自社の社員がどちらに当たりそうかは、海外出張か海外派遣か 判定チャートで、健康診断・在留届の扱いとあわせて確かめられます。
海外出張者と海外派遣者の定義
- 海外出張者 … 単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者
- 海外派遣者 … 海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者、またはその事業場の使用者(事業主およびその他労働者以外の方)
どちらに当たるかは、勤務の実態で決まる
出張命令書を出していれば出張、という整理はできません。厚生労働省は「勤務の実態によって総合的に判断される」としています。
一般的な例として挙げられているのは次のとおりです。
海外出張の例
- 商談
- 技術・仕様などの打ち合わせ
- 市場調査・会議・視察・見学
- アフターサービス
- 現地での突発的なトラブル対処
- 技術習得などのために海外に赴く場合
海外派遣の例
- 海外関連会社(現地法人、合弁会社、提携先企業など)へ出向する場合
- 海外支店、営業所などへ転勤する場合
- 海外で行う据付工事・建設工事(有期事業)に従事する場合
実務上の注意点
滞在が短くても、現地法人の指揮下に入って働いていれば派遣と判断されうるという点です。「長期出張」という名目で現地法人の業務に従事している人がいる会社は、事故が起きる前に整理しておくべき領域です。
特別加入は、事故の前でなければ間に合わない
特別加入の手続きは、すでに海外に派遣されている人についても行えます。
ここが大事
労災として認められるには、災害の発生前に加入していることが前提です。事故が起きてから遡って手続きをすることはできません。
手続きは、申請書を所轄の労働基準監督署を経由して都道府県労働局長に提出します。
赴任前に会社がやること
特別加入の申請は、派遣元の会社(事業主)が行います。本人が手続きするものではありません。
出張か派遣かを、勤務の実態で整理する
判断の目安は上の「どちらに当たるかは、勤務の実態で決まる」のとおりです。
派遣に当たる人の申請書(または変更届)を、派遣日の前に出す
初めて特別加入する会社は申請書を、すでに承認を受けている会社が人を加えるときは変更届を出します。
申請書に、業務の内容と給付基礎日額を書く
給付基礎日額は、給付額を算定する基礎になる額です。
派遣先・派遣する国の変更や帰国があれば、変更届を出す
加入できるのは、申請した日より後の日付です。
特別加入の申請に対する労働局長の承認は、申請日の翌日から30日以内で申請者が加入を希望する日となります。 例えば、4月1日から特別加入を希望する場合は、3月2日から3月31日までの間に提出しなければなりません。 希望日以後に提出した場合は、希望日の加入は出来ませんので海外派遣日の前に申請書または変更届を提出する必要があります。
給付基礎日額とは、労災保険の給付額を算定する基礎となるもので、申請に基づいて労働局長が決定します。
赴任日から逆算する
派遣日の前日までに承認が出ているように、赴任日が決まった時点で申請書を出します。赴任後に気づいて出しても、それまでに起きた災害は対象になりません。
この制度でどこまで対応できるか
特別加入が対象とする範囲は、次のとおりです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 業務上・通勤による災害 |
| 対象外 | 業務外の私傷病。健康保険の海外療養費の枠組みになります |
また、労災保険の給付は日本の基準で行われます。現地の医療費の水準や、搬送・家族の渡航にかかる費用をどう扱うかは、会社の規程で別途決めておく必要があります。
実際に出張者が入院したときの会社側の動きは出張者が現地で入院したときの、会社の対応にまとめています。渡航の目的・期間ごとに会社側の準備に抜けがないかは、海外出張・赴任 準備チェック診断で確認できます。
出典
- 厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040324-7.html (2026-09-15 取得)
- 厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」2 特別加入の手続き https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-7-04.pdf (2026-09-29 取得)
- 厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」4 給付基礎日額 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-7-06.pdf (2026-09-29 取得)
制度の内容は改定されることがあります。実際の手続きにあたっては、所轄の労働基準監督署の最新の案内を確認してください。個別の事案が海外出張と海外派遣のどちらに当たるか、また労災に該当するかどうかの判断は、所轄の労働基準監督署が行います。
監修:真下 恭徳(リスクコンサルタント/株式会社キール)
株式会社キールにて、法人のリスク管理と損害保険の実務に従事。事故対応と保険金請求の実務経験をもとに、海外で起きるトラブルへの備えを整理しています。
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